名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)191号 判決 1950年7月10日
被告人
松田正保
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金壱万五千円に処する。
右罰金を完納することが出来ないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
検察官の控訴趣意第二点について。
原判決は、被告人が法定の除外事由なく医薬品販売業の登録を受けないで営利の目的で昭和二十四年三月中旬末頃迄の間に前後四回に瓦つて富山市梅沢町井上恒治方外一個所で同人外一名の者より医薬品であるサントニン一本二十八瓦入り合計十八本を買受け、其の頃前後九回に瓦り肩書居宅外一個所で相川輝正外三名の者に医薬品であるサントニン一本二十八瓦入り合計二十一本を販売し医薬品販売業を営んだものである旨の事実を認定し、右の事実に法律を適用し該事実は薬事法第二十九条第一項第五十六条に該当するとし、所定刑中罰金刑を選択した上、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるとして同法第四十八条第二項を適用し、各罪につき定めた罰金の合算額内で被告人を罰金壱万五千円に処し、尚公訴事実中前記(論旨第一点に対する判示部分参照)犯罪の証明なしとした部分について無罪の裁判を言渡したものであることは、記録によつて明白である。よつて其の法律適用の当否について審案する。
思うに薬事法第二十九条違反の罪においては、いやしくも人の所為であつて同条所定の犯罪構成要件に該当するものである限り、其の所為が単に一回行われたのみであつても直ちに同条違反の罪を構成し、必ずしも斯る所為の数回に瓦つて反覆累行されることを要しないこと、多言を要せずして明らかであるが、しかしながら又薬事法はかような所為が通常継続的に反覆せられるであろうことを予想し、斯る場合もまたこれを包括的に一罪として処断すべき旨定めたものと解すべきである。蓋し薬事法第二十九条は医薬品販売業の登録を受けないで医薬品販売業を営んだものを処罰する規定であり、営業なる観念は通常多数同種の営利行為が反覆累行されることを当然の前提として成立するものだからである。そうだとすると前記のような場合偶々の所為の数の如何に拘らず特定の営業を目的とする犯人の意志発動は特別の事情なき限り単一であると認むべきであり、犯意が単一である以上其の所為は包括して単純一罪として処断すべく、これを併合罪として処断すべきでないと結論せざるを得ないわけである。果してそうだとすれば原審がこれと異る見解から敍上の認定事実に対し刑法第四十五条第四十八条を適用し主文において一部無罪の言渡をしたのは、法律の適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は此の点に於て破棄を免れない。